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ミルタンクのミルクは誰のためのモノか

(もう2月ですが)2021年の干支は「丑」です。ということで、牛がモチーフのミルタンクについて疑問をちょっと考えました。

 

 

ミルタンクはどんなポケモン

基本情報

分類は「ちちうしポケモン」。ノーマルタイプ。たかさ1.2m、おもさ75.5kg。体色はピンク色メインに、顔周りや手先などは黒、おなかは薄い黄色で、おなかの4つの乳首が印象的です。性別はメスのみ確認されています。

複数のミルタンクのイラスト

また、図鑑の説明にはこのように記載されています。

金、リーフグリーンハートゴールド、Y
ミルクは えいようまんてん。おとしよりや びょうきの ひとに とって さいこうの のみもの。
(漢字) ミルクは 栄養満点。お年寄りや 病気の 人に とって 最高の 飲み物。
銀、ファイアレッドソウルシルバー、X
こどもが うまれたときに しぼられた ミルクには いつもより えいようが たっぷり つまっている。
(漢字) 子供が 生まれたときに しぼられた ミルクには いつもより 栄養が たっぷり つまっている。
クリスタル
ミルタンクの ちちを しぼるときは うえから したへ リズミカルに おしながら しぼるのが コツだ。
ルビー・サファイア・エメラルド、オメガルビーアルファサファイア
まいにち 20リットルの ミルクを だす。あまい ミルクは おとなも こどもも だいすき。にがてな ひとは ヨーグルトにして たべている。
(漢字) 毎日 20リットルの ミルクを だす。 甘い ミルクは 大人も 子どもも 大好き。 苦手な 人は ヨーグルトにして 食べている。
ダイヤモンド・パール・プラチナ、ブラック・ホワイト、ブラック2・ホワイト2
ミルタンクの ミルクを のんで そだった こどもは けんこうで たくましい おとなに なるという。
(漢字) ミルタンクの ミルクを 飲んで 育った 子供は 健康で たくましい 大人に なるという。
サン
そのミルクは えいようまんてんで こうカロリー。ゆえに のみすぎると ミルタンクみたいな たいけいに なる。
(漢字) そのミルクは 栄養満点で 高カロリー。ゆえに 飲みすぎると ミルタンクみたいな 体型に なる。
ムーン
ミルクを とるため そだてる ひとが ほとんどだが かなり たくましくて タフなので たたかいにも むいている。
(漢字) ミルクを 採るため 育てる 人が ほとんどだが かなり たくましくて タフなので 戦いにも 向いている。
ウルトラサン
ひに 20リットルの ちちを だす。 ぼくそうの しつが よい とちほど だす ミルクは コクがあり うまい。
(漢字) 日に 20リットルの 乳を 出す。 牧草の 質が 良い 土地ほど 出す ミルクは コクがあり 美味い。
ウルトラムーン
ミルクは おいしく えいようまんてん。 ただし のみすぎると おなかが くだることも あるので ちゅういだ。
(漢字) ミルクは おいしく 栄養満点。 ただし 飲みすぎると お腹が 下ることも あるので 注意だ。
ソード
えいよう まんてんの ミルクを だす ことから ふるくから にんげんと ポケモンの くらしを ささえてきた。
(漢字) 栄養満点の ミルクを 出すことから 古くから 人間と ポケモンの 暮らしを 支えてきた。
シールド
まいにち ミルクを しぼらないと ぐあいが わるくなる。 ミルクの あじは きせつに よって かわるぞ。
(漢字) 毎日 ミルクを 搾らないと 具合が 悪くなる。 ミルクの 味は 季節によって 変わるぞ。

 

ミルタンク - ポケモンWiki(閲覧2021年1月20日https://wiki.xn--rckteqa2e.com/wiki/%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%82%AF

 

乳牛がモチーフになっている

ビジュアルからも図鑑の説明からも見て分かるように、ミルタンクは「乳牛」をモチーフとしたポケモンです。図鑑説明において、ミルタンクのミルクは人間にとって最高の飲み物だそうですが、「モーモーミルク」として回復アイテムにもなっているので、ポケモンにも良い飲み物かと思われます。また、「毎日ミルクを絞らないと具合が悪くなる」「日に20リットルの乳を出す」「飲み過ぎると腹を下す」なども、現実の乳牛の"生態"や搾乳量、乳糖不耐症をモデルにしているものと推測されます。

それにしてもこの図鑑説明、かなりヤバイですね。「乳牛をモデルにしている」ことはとてもよく伝わりますが、「ポケモンという生き物としての生態」として読むと、なんでやねん??大丈夫か??というツッコミどころがたくさんあります。

 

図鑑説明ちょっと色々おかしくない?

子供が生まれたとき?

「子供が 生まれたときに しぼられた ミルクには いつもより 栄養が たっぷり つまっている」(『銀』『X』)ってこれマジで意味不明じゃないですか?「子供が生まれたとき」っていつだよ、というのもありますが(ポケモンはタマゴから生まれるが、ポケモンが「ポケモンのタマゴ」を生むことは確認されていない)、ミルタンクは子供を生まなくても年中自然に乳を分泌する生物っていうことですか?もしかして、「乳牛のメスは大人になったら自然にミルクが出る生き物」とか思われてます?そんなわけないだろ!

当たり前ですが、牛乳は「牛の母乳」です。子牛を出産した時しか出ないので、酪農用の牛はほぼ全員人口授精を経て妊娠・出産をしています。人間などの他のほ乳類で考えても分かると思いますが、出産を経験せずとも大人になったからミルクを分泌します、なんてことは基本的にありません。

なお、"品種改良"された乳牛については、妊娠期間中も乳を出し続けるので、「妊娠期間ではなく出産後」に分泌された乳はいつもより栄養がたっぷり、みたいなつじつま合わせはできますが、ミルタンクは妊娠しないのでこれも無理があります。 

 

栄養満点?

図鑑の説明では、繰り返し「栄養満点」であることが強調されています。これも、農林水産省の「栄養バランスガイド」に「牛乳・乳製品」の項目があるように、バランスの良い食事をするためには牛乳を飲む必要がある、と一般に流布され、認識されていることに由来しているように思われます。

しかし昨今「牛乳は良い飲み物」という”常識”は再考されつつあります。最新のカナダのフードガイドでは「牛乳と代用食品」のカテゴリーがなくなったし、様々な病気のリスクを上げるという研究もあります。

牛乳の健康に関する研究は対立するものが様々あるので健康問題について詳細の言及は避けますが、だからといって何も分からないし語れないというわけではありません。牛乳や乳製品を摂取して長生きしている人も、摂取せずに長生きしている人もいるわけですし、少なくとも牛乳は「有毒な飲み物」ではありませんが、「健康のために必須の飲み物」ではないというところは確実かと思われます。

また、「栄養がたくさん含まれている」というのは、確かに事実かもしれません。人間の赤ちゃんよりずっと大きな子牛を育てるためには、たくさんの栄養が必要になるわけですし。ただ、「最高の飲み物」と考えるのは、いささか無理があるのではないでしょうか。初めから栄養バランスを考えて作られた栄養補助食品のような物ならまだしも、数ある動物種のひとつの母乳です。あくまで子牛にとって最適化された飲み物であって、それが子牛以外にも最適化されていると考えるのは難しいと思いますし、同様にミルタンクのミルクの栄養も、「ポケモンやヒト」という超広範囲に最適化されていると考えるのは無理があるように思います。

 

日に20リットルもミルクを出す?

「毎日ミルクを絞らないと具合が悪くなる」(『シールド』)「日に20リットルの乳を出す」(『ウルトラサン』)という図鑑説明も、現実世界の乳牛の数値や実態を参考にしているようです。確かに乳牛は搾乳をしないと乳房炎になりやすいですし、「1日20リットル」も酪農における平均的な搾乳量です。しかし「ミルタンクの図鑑説明」として考えると、かなり不自然です。

まず「毎日ミルクを絞らないと」とありますが、本来ミルクは子供を育てるために分泌されるものなので、自分が生んだ子供を自分で育てる「自然な(野生の)」生き方をしているミルタンクであれば、「人間によって絞られないと体調が悪くなる」ということにはならないはずです。野生のミルタンクはゲーム上に存在しているので、彼女たちはいったいどのように生活しているのか、不思議な設定です。

また「1日20リットル」という数値は正直めちゃくちゃ無理があると思います。乳牛の体重は約600~700kgなのに対し、ミルタンクの図鑑上の体重は75.5kgで、ミルタンクの方が圧倒的に体重が低いにもかかわらず搾乳量が同量なのはおかしいです。そして、「乳牛の搾乳量1日20リットル」という数値は、「酪農における乳牛」においての話です。乳牛の搾乳量は"品種改良"により年々増大しており、現代の牛は、1960年代の倍の乳量を出すそうです。「本来の乳牛」の搾乳量はもっと少なく、1日に7キログラム(※リットルとキログラムはほぼ同等)と言われています。なお、「スーパーカウ」と呼ばれる搾乳量が多い牛もいますが、それでも搾乳量は一般的な乳牛の3倍程度なので、やはり体重比における搾乳量はミルタンクの方が圧倒的に多いです。

"品種改良"により8倍近い体重のある乳牛と同程度の搾乳量を誇るミルタンクの体はいったいどうなっているのでしょう?そもそもなぜ「本来の牛」ではなく「品種改良された牛」を参照しているのでしょう。ポケモン図鑑の説明は、「自然なポケモン」について書いてなかった?それとも、もう「品種改良されたミルタンク」しか存在しないのでしょうか。

 

ポケモンはフィクションですが

「インドぞう」が出てくるライチュウのように、他のポケモンの図鑑説明にもツッコミどころがあったりするし、そもそもポケモンはフィクションなんだから、そんなに細かいことは気にしなくてよくない?とか思われそうですが、フィクションならなんでもよいということはなく、むしろフィクションだからこそ、説得力のある設定を考えるべきだと思います。

別に、「設定を現実世界の生物に合わせろ」とは思いません。フィクションにより、現実世界での実践が難しいことをかなえることができ、ポケモンが現実世界の動物の代わりに消費される存在になることはむしろ好ましいことにも思います。「ライオンと仲良くなりたい(一緒に写真を撮りたい・飼いたいなど)」はライオンにストレスになるだろうから無理でも、「カエンジシと仲良くなりたい(ゲーム内で仲良くする)」なら傷つく生き物はいないし、「スナネコかわいい」などと人気が出ると密漁・密輸の増加に繋がりますが、「ヌメラかわいい」となっても、動物園やペットショップにヌメラが並ぶことはありません(グッズはたくさん売れるだろうけど)。

 

モーモーミルクはなくなる

モーモーミルクとは

ポケモンの世界には、「モーモーミルク」というアイテムが存在します。シリーズによって詳細は異なりますが、「ぼくじょう」で購入できたり、野生のミルタンクが持っていたりします。多くの場合、買う方法がちょっと面倒ですが、キズぐすりとは異なる回復量100は便利でゲーム中でも時々お世話になりました。

ゲームメインシリーズのポケモンの世界において、明確に「ポケモンの肉」が流通している描写がない一方(ハンバーグなどは登場しているが材料に何が使われているかは不明)、ミルタンクはミルクを分泌し、その分泌物をモーモーミルクとして商品化されていることは、ミルタンクのいる牧場で購入できることや、アイテムのイラストにミルタンクが描かれていることなどからも明確に描写されています。

ポケモンの肉」は「ポケモンの死」が関わることが必至なのに対し、ミルクであればポケモンを殺す必要はない。むしろポケモンと人間が持ちつ持たれつで共生している世界ーーポケモンミルタンク)はミルクを人間に提供し、人間はポケモンに住処や食事・愛情を提供する、というイメージにぴったり?!ということで、初登場の2世代(金・銀)から今のところずっと継続して登場しています。

 

ポケモンとヒトは共存してる?

ポケモンと人間は共に、学び、助け合い、仕事をし、生き、たまにはケンカしたりして、絆を結び仲良く暮らしている(劇場版ポケットモンスター『みんなの物語』より)」と映画のナレーションでも言っているように、人間は既にポケモンと良好な関係を築いている。ポケモンを苦しめるのは悪い人だけ。ということになっていますが、果たして本当でしょうか。

ポケモンの道具扱い」は悪い人達のやることで、正義側の主人公達からは非難されますが、モーモーミルクの生産のための手段としてミルタンクを利用することは、ポケモンの道具扱いにはならないんでしょうか。ミルタンク達に愛情を注いでいれば、問題ないんでしょうか。そもそもモーモーミルク生産に使われるミルタンク達はどのような環境で生きているのか、想像したことはありますか。ゲームやアニメに登場する牧場の環境が、家畜として存在するミルタンクのすべてなのでしょうか。

 

乳牛の場合

まず、ミルタンクの生態が現実世界の乳牛をモチーフにしていることから、モーモーミルクも酪農をモチーフにしていると考えるのは妥当かと思います。では、酪農業界における乳牛たちはどのような生活を送り、どのような一生が待っているのでしょうか。広い牧場で自由に草を食べながらのびのびと育ち、時々そのミルクをちょっとわけてもらって、それを売りにだしている?

そんな暮らしをしている牛たちも、ゼロではないかもしれません。でも、商品として紙パックに入って店頭に並ぶ安い牛乳の生産に使われている牛もそんな風に育っているのかといえば、残念ながら日本の大半(約7割)の牛は繋ぎ飼いだそうです。その一生は、3,4回の人工授精・妊娠・搾乳を終えたのち、生後約5年ほどで屠殺(とさつ)されて食肉用に回されます。

屠殺される動物は、何も最初から食肉用に育てられた動物に限らず、卵用のニワトリなんかも生後約2年ほどで殺されます。そりゃあ、生産性のない(落ちた)生き物をいつまでも飼い続けてたら採算とれないのでしょうがないですね。それを売ってお金を稼ごうと思うならより効率よく、”品種改良”でミルクの分泌量を増やして生産性が落ちたら廃用、次の新しい若い牛でまた搾乳しないとあんなに安く流通させられないわけです。繋ぎ飼いの方が牛を管理しやすいし、土地も狭いので放牧も難しいですね…。

ちなみに、メスの子牛は麻酔無しで角を切られるし、しっぽも同様に切除。余分な乳首を切り落とすこともあるらしいです。でもどうやらミルタンクは角もしっぽも切られている様子はないのでそのようなことは行われていないようですが、ミルタンク同士のけんかや世話をする人の安全性はどのように担保されているのか。それとも、表に出てこない大量生産用のミルタンクは尻尾が切られている子がいる可能性も…?

 

殺していなければ良いのか

一般的な乳牛の現状をミルタンクにも当てはめるなら、ポケモンの世界では大量のミルタンクが日々殺されているのではと推測するのは容易いように思います。やばい。本当に、ポケモン世界のフツーの善良な市民達は、ミルタンクを計画的に殺しながら(殺しに荷担しながら)、ポケモン達と仲良く共存しているつもりでいるのでしょうか。

ポケモン世界の酪農は、動物福祉*1が最高ランクになっているから現実世界とは事情が異なる、と考えることもできますが、これには2つの問題があります。ひとつは、作中において動物福祉に関する描写が皆無なこと。もうひとつは、どれだけ充実した福祉のもとで利用されていようとも、そもそも利用することが間違っているということです。

まず作中の福祉描写についてですが、作中における牧場のミルタンクの描写はまさにイマジナリー乳牛といった感じで、ゲームの都合上表現を簡略化していると考えても不自然です。なにせミルクを出すミルタンクしか登場せず、病気だったり年を重ねたりでミルクがまったく出なくなった世話されるだけのミルタンクがどこにいるのか不明です(個人的に覚えている限りこれらの描写はなかったと思う)。また、もし仮に全ミルタンクが最高ランクの福祉で育てられていた場合を考えても、流通できるモーモーミルクの量はかなり少なくなるはずなのに、比較的容易かつ安価にミルクを入手できている現状からして(少なくとも高級で貴重なアイテムではない)、描写されていないだけで工場式のミルタンク牧場が存在する可能性は大いにあります。なにより、すべてのミルタンク牧場が作中で描写されるような牧場なのか、そうでないのかを判断する描写やセリフはなかったように思います。よって、ポケモン世界は福祉が完璧」だと言える根拠はなにもないことになります。

そしてたとえ、作中で描かれていないだけですべてのモーモーミルク生産場で最高ランクの福祉が充実していて、誰ひとりとして殺されることなく幸せな余生を送っていたと仮定しても、モーモーミルクというアイテムの正当化は難しいと思います。なぜなら、ミルクという分泌物を得る手段として、感情のある生き物であるミルタンクを利用するということが、彼女らに対する不当な扱いであると考えることができるからです。

個人的にパートナーとしてつれているミルタンクが何らかの理由(廃業した牧場から引き取ったなど)で分泌したミルクを、その人が個人的な範囲で利用するといった限定的なシチュエーションならまだしも、計画的にミルタンクを"用意"し(十中八九人工的に繁殖させている。※個体値厳選はどうなんだ、というツッコミはなしで。)そのミルクを絞ることでしか成り立たない生産過程を経る「モーモーミルク」が、人間によるポケモンの道具的利用だと批判されても致し方ないように思います。

つまり、ミルタンクを殺さずにモーモーミルクを生産して売り上げを得ている可能性を作中から読み取るのは難しく、また流通量などからみても現実味がないことや、ミルタンクをお金儲けの手段として利用することの倫理的な問題から、「(ミルタンクを)殺さずにミルクを生産すればいいんだから、そういうことにしてモーモーミルクを(作中に)出そう」と考えることは難しいと思います。

 

モーモーミルクがなくなっても大丈夫

モーモーミルクの代わりとして、例えば「リンドミルク」みたいに「きのみ」を使った植物性ミルクを出せばいいんじゃないでしょうか。栄養についても、図鑑説明の件で述べたように、「牛乳・乳製品」は生きるために必須ではありません。牛乳でないと摂取できない栄養素はないし、牛乳に多く含まれている栄養素をたくさん含む他の食材はいろいろあります。

ポケモン世界の人間は、ミルタンクのミルクにだけ含まれる栄養素がないと生きていけないんだ!」という説を仮定するのも無理筋です。人間をそんな激ヤバ設定にする必要はないと思います。

「そんなこと(モーモーミルクは不当だと)言うなら、ポケモンバトルは大丈夫なのか」などと思われそうですが、それはそれです。倫理的な理由からモーモーミルクがなくなったとしても、他の設定や描写には直接の影響はないので心配しなくて大丈夫だと思います。ポケモントレーナーポケモンバトルの正当性は、また別途考察すればいいだけの話かと思います。

 

世界的な牛乳離れ

現実世界においては、特に欧米などを中心に牛乳離れが進んでいるようです。最近では、アメリカで老舗大手酪農会社のDean Foodsが破産申請したことも有名です。これは、一時的なトレンドではなく時代の流れなので、いずれ植物性ミルクが「普通のミルク」になって、牛乳を飲む人が少数派になることも考えられます(そのくらいにならないと気候危機や食料・飢餓問題とかを乗り越えるのは無理そうだし…)。

そうなった場合に(いつになるか分からないが)、相変わらず「モーモーミルク」を作中に登場させることは難しくなるのではないでしょうか。特に若い人達は、植物性ミルクが当たり前にスーパーや食卓に並ぶ様子を見て育つだろうし、そういった人達が今後、モーモーミルクに対して違和感や古さを覚え、「ポケモンは自分たち(若者)の方を向いていない」と感じる可能性も危惧します。

 

モーモーミルクの今後

以上のことから、「モーモーミルク」がポケモン世界に存在・流通しているということは、ミルタンクが乳牛のように使用され殺されているかもしれないのは想像に難くなく、「ポケモンとヒトの共存する世界」の描写に差し障るモーモーミルクが登場しなくなるのではないでしょうか。現実世界での牛乳離れも相まって、今後「モーモーミルク」はポケモン世界に登場できなくなるのではないかと考えます。

「モーモーミルク」や「牧場」の代替は簡単だし、いつの間にか回復量100の別アイテムが代わりに登場しても、ゲームのプレイヤーは何となく受け容れるだろうし、いつか出る新作(そんな話は今のところない)でひっそりモーモーミルクが消されている可能性は大いにあるのではないでしょうか。

 

ミルタンクを正当化する

ミルタンク自身の設定はどうする?

モーモーミルクの擁護は難しいですが、ミルタンクはなんとか擁護したいところ。ミルタンクの設定も色々不自然で正当化が難しいように感じますが、これらの設定は変更されるべきなのでしょうか。現状の設定をできるだけ引き継ぎながら、うまく都合をつけることは可能か考えてみます。

乳牛との比較を踏まえた上で、乳牛とは異なる生き物としてミルタンクを再考することで、よりミルタンクの魅力を上げることもできるのではないかと考えます。ポケモンはフィクションなので、後から事実を付け加えたり少し変更したりしても、誰かに苦痛をあたえるわけではないのがよいところです。

 

母乳だと考える場合

牛乳は牛の母乳なので、ミルタンクのミルクもミルタンクの母乳だと考えるのは、妥当な考えだと思います。この場合、「栄養満点」という設定には説明が付きますが、他の設定には少々無理が生じます。既に図鑑説明の時にも取り上げましたが、「1日20リットルって多すぎない?てか子供のミルタンクそんなに飲めるの?」「なんで人間や他のポケモンに”も”いい飲み物なの?都合良すぎない?」「子供が生まれなくても母乳が出るの?」「季節によって味が変わるって1年中母乳垂れ流しか?繁殖期とかないの?」など枚挙にいとまがありません。ポケモンの生殖についてあやふやにされていることを置いておいても、「母乳である」ことに説得力を持たせるのは難しいように思います。

 

ミルクは生存戦略性?

自身の子供のためでない分泌物の存在は、ミルタンクの生き物としての生存戦略である可能性が考えられます

甘い密を出すことでアリに守ってもらうアブラムシがいるように、ミルタンクはミルクを提供する代わりに、提供した相手からミルタンクに有利な何かをしてもらっていると仮定すれば、母乳とは異なる分泌物の存在を推測できます。

ただこれにも問題があり、第一にその分泌物は栄養価が高くある必然性はなく、甘く美味しくさえあればいいはずです。一応、これを正当化する場合「栄養価が高い」が事実でないことにすれば辻褄は合います。「〇〇が健康に良い・悪い」は常に研究され、更新され続けているので、ミルタンクのミルクの栄養価や健康への影響が見直された設定がでてきてもおかしくないと思います。

第二に、アブラムシは弱いのでアリに守ってもらうメリットがありますが、ミルタンクはそんなに弱くないので誰かに守られる必要がないように思います。「かなり たくましくて タフなので 戦いにも 向いている(『ムーン』)」と図鑑にも書いてあるし、進化しない(進化先がない)ので基本的な能力も決して低くはないです(種族値95・80・105・40・70・100)。

 

技ならありえる?

ミルタンクの日に20リットルというあまりに大きい搾乳量は、どうすれば辻褄を合わせることができるでしょうか。ミルタンクのミルクが「ポケモンのワザの一種」であることに注目すれば、一応可能かもしれません。

ポケモン達は皆「ワザ」を使用します。みずタイプのポケモンは主に口から水を出し、ほのおタイプのポケモンも同様に口から火を吹いたりします。体から葉っぱを出したりビームを出すポケモンもいます。ゲームのエフェクトやアニメのワザは、どうみてもポケモンの体格よりずっと多くの水とか出してます。ワザには使用回数(PP/パワーポイント)があるとはいえ、リットル換算でもかなりの量を排出しているようにみえます。

ポケモン世界には、「ミルクのみ」という、ミルクを飲むことで体力を回復するワザがあります。ミルタンクのミルクもポケモンのワザだから異常な搾乳量も実現できている、大量にミルクを出しても大丈夫、と考えることもできるかもしれません。他のワザも、真面目に考えるとどうやってるのか分からないやばそうなものは色々ありますし。

ただこれにも問題があり、他のポケモンのワザの水量なんかは明言されていないのに、ミルタンクのミルク量だけ具体的な数値が示されている不思議があります。「みずでっぽうは1回で何リットルの水を出す」みたいな話はないし、「ミルクのみ1回何リットル」という話ももちろんないです。他のワザは、グラフィックを見る限り量が多いように見える、以上のことは分からないのに対し、ミルタンクは20リットルという値が示されてしまいました。他のワザは分量を曖昧に濁しているのに…。

そして何より「ワザだから何でもアリ」ってやっぱつまんないでしょ。「ポケモン空想科学読本」というシリーズの本が現在4冊刊行されていますが、これもポケモンの設定を大まじめに現実の科学に当てはめて考察しているのが面白いんではないでしょうか。ちなみにミルタンクはどの本でも考察の対象になっていませんでした。酪農も、生物や科学の話と近しいと思うんですが、なぜハブられてしまったのか…。

  

まとめ

「乳牛は皆殺処分されている」という事実、ぶっちゃけ比較的最近初めて知りましたが、その時真っ先に考えたのは、「ミルタンク、やばない?」です。調べてみると、殺処分以外にも、搾乳量や栄養など、現実世界の酪農と牛乳をそのままなぞっているがために、ミルタンク自身の扱いや設定に疑問点が色々と出てきました。特に、ミルタンクのミルクは母乳なのかそれとも別のものなのかすらわからない。いったいなぜあれだけの量のミルクをミルタンクは出すのかが全く不明。生き物の設定としては穴が大きすぎるのではないでしょうか。

まあ、ミルタンクがいないことになることはまず100%ありえないのでそこは安心です(媒体によって出禁になったポケモンなどはいるけど*2ポケモン自体の存在が消されたことはないし、今後もありえないと思う)。ただ、モーモーミルクがなくなる可能性は大いにあるかと思います。モーモーミルクの代わりにはほかの植物(きのみとか)ミルクを出せばいいし、牧場は「(ファーム)アニマルサンクチュアリ*3」のような施設に置き換えればいいので、モーモーミルクが存在し続ける必然性はありません。

今後、「ポケットモンスター」シリーズに最新作が出るとしたら(今のところそんな話はないが)、ゲームフリークの人達には、非人間動物や動物倫理について勉強してゲームを作ってほしいなと思いました(メタ視点)。もしミルタンクの図鑑説明文が増えるとしたら、なんか良い感じに整合性がとれて、ミルタンク達が人間のためにミルクを出す都合の良い生き物かのような現状を変えるようなステキな文章が登場してくれればいいなと思います。

 

ミルタンクのイラスト

 

参考書籍・サイト 

エリーズ・ドゥソルニエ著 井上太一訳『牛乳をめぐる10の神話』(2020年)緑風出版

「食事バランスガイド」について:農林水産省

Canada's Food Guide

https://www.dairy.co.jp/jp/jpall.pdf

乳牛が乳を出す期間と量│一般社団法人日本乳業協会

モーモーミルク - ポケモンWiki

鶏について | たまご(卵)の通販・販売なら「農場のたまご」

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*1:アニマルウェルフェア(animal welfare)ともいう。「動物の権利(アニマルライツ/animal right)」と混同されがちですが、別の概念です。「福祉」は、動物を利用する時にはできるだけ動物にとって快適な環境(例えば、繋ぎ飼いではなく放牧)で育てようというのに対し、「権利」は「動物を利用する」ことを否定します。

*2:TVアニメ出禁のポリゴンや、カードゲーム出禁のユンゲラーなど

*3:動物保護施設的な場所。行き場のない畜産動物を、殺処分ではなく最後まで世話をする。観光用の牧場とは異なり、動物の権利に則して食事などに畜産物を提供しない。