びとうろうぽ記

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バーチャル動物とポケモン

ポケモンゲームの制作者が動物園のクラファンを支援していて絶望的な気分です。

 

「本物のポケモン」はいないが、「本物の動物」はこの世界に存在することについて

ハリウッド映画『名探偵ピカチュウ』の感想に、「なんで現実世界にはポケモンがいないんだ??」という嘆きの声がそれなりにあったようですが、確かに「本物のポケモン」はこの世のどこにもいません。個人的には、ポケモンがコチラの世界に現れるより、自分がポケモンの世界に行きたい派ですが、どちらにせよ、生涯ポケモンと直接会ったりふれあったりする経験をすることは不可能です。

一方、ポケモンの元ネタになった動物なら、会おうと思えば会える存在はかなりあります。ワンパチの元になったコーギーなら、ペットショップや保護動物譲渡会、町を散歩しているところに出くわすこともあるし、既に伴侶動物として共に暮らしている人もいるでしょう。魚モチーフのポケモンも数多いますが、魚はそれこそスーパーの鮮魚売り場でも見られますし(たいがい死んでるけど)、水族館に行けば海や川に生息する様々な種類の魚が生きて游いでいる姿を見ることができます。動物園も、日本には生息していないめずらしい動物を間近に見ることのできる場所です。あとあまりメジャーではありませんが、サーカスなどでもめずらしい動物を見ることができます。

 

このように、ポケモンとは違い、本物の動物とは様々な場所や方法で触れたり出会ったりする機会がありますが、実のところ「本物」であることはそんなに重要なことなんでしょうか。本物が存在する動物も、バーチャルに再現されるのもアリなのでは、というような取り組みはすでにいろいろあります。

 

動物代替技術が進んでいる背景

「本物でない動物」がつくられるのには、それなりに理由や背景があります。自分もそんなに詳しいわけではないので、ざっくりとだけと紹介します。

 

①技術の進歩

数十年、数百年前と比べて、テクノロジーは格段に進歩しています。後述しますが、3Dホログラムやロボットによる動物の再現技術も進んでいます。また、撮影技術も進歩しており、より間近で自然な動物の様子を撮影した映像が撮れるようになっています。ARやVRなども用いれば、より鮮明かつ直感的に、動物の大きさなどを知ることも容易になるのではないでしょうか。

 

②動物についての事実と告発

動物たちの生態やコミュニケーション方法についての研究は現在も行われており、動物たちがどのような存在なのかといった事実は日々更新されています。そしてその内容は基本的に「想像以上に賢く情感豊かな存在である」というものはあれ、「思ったより愚かで鈍い存在だった」というものはまずありません。つまり、一般的に思われているより動物たちは"人間に近く"感情的な存在であるということです。

そして、そのような動物たちが、本来の住処とはまったく異なる場所で人目にさらされることで、ストレスを受けないわけがないわけで、例えば動物園では動物の「常同行動」など、具体的な問題点も指摘されています。

 

代替手段の例

生きた動物に代わる手段や技術は多数存在し、すでに実用されている例もあります。

 

①3Dホログラムの動物が登場するサーカス

本物の動物を調教して芸をさせる代わりに、3Dホログラムの動物を登場させるドイツのサーカス団があります。これポケモンでできそうでは??でかいポケモンを等身大サイズで映してみてほしい。

動物たちが3Dホログラムで登場?!動物保護を体現したサーカス団 | 株式会社グローバルプロデュース

 

②ロボットのイルカや魚

かなりリアルに再現されたロボットのイルカや魚も存在します。動画を見ればわかりますが、めっちゃ本物みたい。ぶっちゃけこれもポケモンでできるのでは??ポケモンにはモチーフになった動物がいるわけだし、その動物の動きを再現しつつ、デザインをポケモンにすればいけそう。ポケモンのロボットが游ぐ様子を間近で見ることができたり、一緒に游げたりなんかしたら超楽しそうじゃないですか??

本物そっくりなロボットのイルカ。これで水族館はどう変わる? | ギズモード・ジャパン

【動画】魚に擬態する水中ロボ、米MITが開発 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 

現在ポケモンが手を出しているバーチャル

ポケモンが手を出しているバーチャルといえば、スマホアプリの『ポケモンGO』においてARシステムが、現在もっとも一般的で、手軽に楽しめるポケモンとバーチャルを繋ぐシステムかと思われます。ここでは、ポケモンを捕獲するときや、捕まえたポケモンと遊ぶときなど、スマホのカメラを起動して現実世界にポケモンがいるような写真を撮ることができます。

また、ポケモンは割と昔から、ポケモンを現実世界に再現する試み自体は行っています。5世代(ブラック・ホワイト、2010年)の頃に出た『ポケモン立体図感BW』であそべた「ポケモンARマーカー」が、その先駆けだったように思います。この当時はARマーカーを自分で用意して、それを3DSのカメラで写すことでポケモンを現実世界に合成することができました。

また、ポケモンセンターシブヤには、巨大な試験管に眠るミュウツーが展示されています(アニマトロニクスという技術を使っているらしい)。ミュウツーは人工的につくられたポケモンなので、試験管に入っているのは演出としては世界観の再現にはなるものの悪趣味な感じではありますが、例えば他のポケモンなら森や洞窟などを背景にしていろんな角度から見渡せるオブジェ的な物をつくっても良さそうだとは思います。

 

株ポケは現実世界と仮想世界をつなぎたいらしい

 2021年6月現在、株式会社ポケモン(株ポケ)は「ポケモンという存在を通して、現実世界と仮想世界の両方を豊かにすること」を社是として掲げています。

私たちの取り組み|株式会社ポケモン|The Pokémon Company

【魚拓】

ここで紹介されている取り組みとしては、地方のPRを行う「ポケモンローカルActs」や東日本大震災の被災地を支援する「POKÉMON with YOU」、イラスト素材やプログラミング教育、知育系動画といった子供向け支援など、社会貢献活動が主に取り上げられています。これらの取り組みはどれも、ポケモンの人気や知名度を利用して人を呼んだり関心を引いたりすることを強みとした取り組みになっているように思います。

確かに、ポケモンブランドの強みとして、数多の魅力的なキャラクター(ポケモン)たちや、「ピカチュウ」くらいならほとんど誰もが知っている圧倒的な知名度、そしてシリーズの原点である『ポケットモンスター赤・緑』が1996年に発売されてから25年という息の長さにより、大人たちのノスタルジーを大いに刺激できることなどがあります。

しかし、ポケモンの魅力はそれだけではなく、何よりポケモンが命ある生き物であるというところにこそあるのではないでしょうか。そしてその、マスコットではなく"動物的"な存在であるということを利用した「現実世界を豊かにする」方法として、ポケモンは「バーチャル動物」の技術や取り組みに参戦してほしいと考えています。

 

ポケモンこそ、代替動物の技術や取り組みを支援するべき

3Dホログラムやロボットなど、本物の動物に代わるテクノロジーは既に存在し、現実の物になっていることに加え、動物利用の倫理的・社会的問題も認知されるようになっている現状において、この「バーチャルな動物」を広める支援をすることは、ポケモンの社是にかなり合致するのではないかと思います。

ポケモンがこれらの技術とコラボすれば、その存在の認知度はかなり上がるだろうし、そうなれば現実世界の生きた動物の代替も進むのではないかと思います。本物の動物を利用することの問題点については、それはそれで他の誰かに啓発してもらいつつ、ポケモンはあくまで表向き「ポケモンのため」というような態度をとっていれば、動物利用への道徳的な告発に対する感情的な反発も避けられるのも"強み"になりそうです。

もちろん、代替技術を利用・支援する理由を明言するに超したことはないし、そうするべきだとは思いますが、一方で日本の企業がそこまでできるわけないんだろうなというあきらめの気持ちがかなり強くあります。ポケモンはすでに安定した人気を保っているわけだし、わざわざ挑戦的で先進的な取り組みをするリスクを取るよりも、他には遅れをとらないよう"中立"を保つほうを選んでいるように思われます。ポケモンのような金持ち企業こそ、その力を周縁化されている側へ使えや、て感じですが長年ポケモンを追っている身としては、ポケモンにより先進的な態度を求めるのも無理なんだろうなとあきらめの境地です。

 

当記事の冒頭で紹介した、株式会社ゲームフリーク常務取締役・増田氏のツイートを見ればわかるように、2021年現在でゲーフリは、生きた動物に代わる存在としてのバーチャルやロボット技術の存在をそもそも知らないか、関心がまったくない様子がうかがえます。増田氏、普通に人間以外の動物に興味ないんでしょ、まあ初代のポケモンは怪獣的なモチーフも多かったししかたないね…。

該当ツイートは一見個人のもののようですが、増田氏はゲーフリのなかでもかなり影響力のある人なので、仮に社員のなかにこれらの技術や問題に関心のある人がいると仮定しても、その意識がポケモンのゲームに反映されるのは何年または何十年も先になるだろうと思われます。動物園の存続を積極的に支援するような人間が、非常に動物的な存在であるポケモンの世界観構築に携わっている限り、ポケモンと人間の関係性のあり方についてより深く掘り下げられる未来は当分訪れないように思われます。BWの内容もアレだったし…(これはこれで話が長くなる)。

 

まとめ

ポケモンというキャラクターのポテンシャルと、株ポケの「現実世界と仮想世界を豊かに」という社是は、ポケモンをバーチャルに再現する取り組みによって脱動物搾取の前線に立てる可能性があるのではないかと思うし、そのような取り組みを行ってほしいと切に願います。ポケモン(のロボット)が本当に泳いでいる様子を間近で見られたり、一緒にプールとか泳げたら楽しそうでしょ??

 

参考文献

田上孝一(2021)『はじめての動物倫理学集英社新書

 

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